DCブラシレスとAC同期モータの回転原理


ここではAC同期モータとDCブラシレスモータの回転原理について簡単に説明したいと思います。両者は構造は同じですが、使い方によって同期モータとかDCブラシレスとか呼び方が 異なります。
では、まず構造について見ましょう。実際製品に使われているDCブラシレスモータの実物写真です。



DCモータと同様回転子と固定子と呼ばれる部分がありますが、名前のとおり回転する部分が回転子で、固定されている部分が固定子です。これをロータとステータと呼んでいる方も多いですが、 一応私は日本語で書きました。使い方によって電磁石の数(極数)が多かったりしますが、全て同じ三相モータです。電磁石の数を数えて見てください。全て3の倍数になっています。一方 固定子の磁石の極数は2の倍数です。多極にすればするほど回転数は落ちますが、トルク(回そうとする力)が上がります。大きいトルクが必要な電動乗り物に使われているモータは特に 極数が多いです。写真は電動原付バイク用のモータの分解写真ですが、特にインホイルモータは大きいトルクを発生するため、極数がかなり多いです。こうすることで減速用歯車が不要になり、 動力伝達効率良くなります。 そして、使い方によって回転子が内側にあるのがインナーロータ、外側にあるのがアウターロータと呼んだりします。昔の洗濯機はモータがプーリーを介して主軸を回していましたが、 最近は電動バイクのインホイルモータと似ているアウターロータ構造が多く、直接高いトルクで主軸を回しますので、プーリーや歯車が不要になる利点があります。

回転子ですが、永久磁石でできています。そのため、日本語の正式名前は永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor)です。家庭用の扇風機や換気扇などに使われている モータも交流モータですが、これは回転子が永久磁石ではなく、ただの鉄の塊です。このようなモータは誘導電動機で、同期電動機ではありません。

では、なぜ交流同期モータと呼んだり、DCブラシレスモータと呼んだりしているかと言いますと、構造は同じでもそれぞれの動かし方が異なります。交流同期モータは基本的に正弦波三相交流で 回しますが、DCブラシレスの場合、矩形波の三相交流をモータに流します。DCブラシレスモータは、ちょうどDCモータの回転子と固定子を逆にしただけで、(DCモータは固定子が永久磁石)通電 シーケンスがDCモータと同じになりますので、特性が DCモータと同じです。DCモータと異なる点は磨耗部品のブラシがないだけで、その理由からDCブラシレスの名前になっています。

そして、DCブラシレスと同期モータの違いは、この回転磁界を誰が操っているかがポイントです。DCブラシレスは回転子が回転磁界を支配しています。一方同期モータは回転磁界を支配しているのは インバータ内部のコンピュータです。回転子は絶対この回転磁界に従わなければなりません。回転子が固定子の回転磁界に必ず同期して回転しますので、同期モータと呼んでいます。同期モータを サーボモータと呼んだりする場合もありますが、サーボは直訳すると召使いの意味なので、回転子が固定子に逆らえないことからそのような名前が決まったかも知れません。(これは謎)

それでは、まずDCブラシレスから見て見ましょう。



殆どのブラシレスモータは固定子の電磁石が6個と回転子の磁極が4個が最小ペアになっています。3相モータの場合、極数が多いモータも必ず固定子と回転子の磁極が3:2の倍数なので、6:4のモータより 動作原理が分かりやすい上半分だけ取って、3:2のモータで説明したいと思います。この3:2の動作原理だけ理解できれば良いと思います。他のペアは全て同じ動きをするからです。

固定子の磁極が3個あるのは3相モータだからです。それぞれU相、V相、W相です。回転子の磁石はN極(青色)とS極(赤色)に着色しました。固定子の近くに回転子位置センサーがあります。 この絵では青色のN極に反応してデジタル信号1を出力し、S極に面した時はデジタル信号0を出力するようにしています。逆にすると逆回転するだけです。

そして、磁石のNとSの境界線部分をq軸(横軸)、磁極の部分をd(直軸)と呼んでいます。モータの参考書に必ず出てくる専門用語です。q軸側の電磁石に電流を流すとトルク(回転しようとする力)が発生します。 d軸側の電磁石に電流を流してもトルクは発生しません。d軸電流は流す方向によって磁石の磁束を弱めたり強めたりするだけです。

同期モータでは、製品によって磁石の磁界を弱くして回転速度を上げる弱め界磁の使い方をしたりします。この時d軸側に少し電流を流しますが、ブラシレスモータは基本的にq軸電流のみです。



では、上の絵の左側を見てください。W相のセンサーに回転子のN極が面していますので、W相のセンサーは1を出力し、他のセンサーは0です。UVWセンサーの値が001の値の時にV相からU相に電流が 流れるようにしています。(電磁石の電流が入る方向がN極、流れ出て行く方向がS極)そうすると、U相の電磁石はS極の磁石を押し出し、N極を引っ張ります。V相の電磁石はSを引っ張り、N極を押し出します。 (橙色の矢印) この力がトルクになって回転子が回転します。位置センサーの値が変わらない限り、V相からU相に電流を流し続けます。

そして右側が回転子が60度時計回りに回転した時です。ここでU相位置センサーもN極に面するので、UVWの位置センサーの値が変わりました。101です。この時はW相からU相に電流を流すようにします。このように 60度ずつ6回回転すると電気角が360度一周します。3:2ペアのモータならちょうど一回転します。6:4ペアなら半回転になり、回転数は下がりますが、トルクは2倍上がります。 そして、電気角が360度一周する全ての通電パターンをアニメにしたのが下の絵です。



このアニメを見ると、モータに三相交流が流れ、回転磁界が発生しています。しかし、この回転磁界は回転子が回転しながら位置センサーを刺激しているから発生しているのです。負荷が重くなって回転子の 速度が落ちると、回転子が次のセンサーを刺激する速度も遅くなるので、三相交流の周波数が下がり、回転磁界も遅くなります。そのため、DCブラシレスモータは負荷がかかると回転数が遅くなり、その分 沢山運動エネルギーの仕事をしようとしますので、電流が沢山流れます。逆に無負荷時にはモータが回転すると発電機になるので、発電した電圧と電源電圧が釣り合うため、電流は殆ど流れません。そのため、 回転数を上げたい時は釣り合う電圧を高くする必要があるので、電源電圧を高くするだけです。そして最大のメリットはモータに流す最適電流は自動で決まるので、制御しなくても良いことです。 つまり、例えば10Wの運動エネルギーの負荷がかかっとしましょう。最初は無負荷でモータに電流が流れませんが、負荷がかかって重くなり、釣り合っていた発電電圧と電源電圧のバランスが崩れて電源から モータに電流が流れます。この電流は10Wの運動エネルギーに変換された分しか流れません。

それでは、AC同期モータを見て見ましょう。AC同期モータは矩形波で回しても問題ありませんが、基本的に正弦波を流し、ベクトル制御を行うのが一般的です。



上のアニメが正弦波を流した状態ですが、固定子の電磁石の磁束密度は矩形波は0か最大値に対して、徐々に大きくなったり、減少したりしています。そのため、矩形波に比べて360度どの角度でも常に同じ 均等なトルクを出すことができ、静かで滑らかに回転します。一方矩形波は60度ずつ進むため、トルクの斑があるのが欠点です。 このアニメでは省略していますが、同期モータも回転子の位置信号は必須です。DCブラシレスは3個の磁気センサーで60度間隔しか検出できませんが、同期モータは1度間隔まで検出できる高精度のセンサーが 使われています。このセンサーはDCブラシレスと違って、次のステップに進むために使われているのではなく、最適なd軸とq軸電流を算出するために使われています。そして、最適d軸とq軸電流を算出して 制御する方式をベクトル制御と言います。

そして、下のアニメがDCブラシレスとAC同期モータの動作が異なる部分です。



DCブラシレスは回転子が60度回転する毎にq軸に電磁石によって磁界を与えてさらに60度回転するようにします。この繰り返しを永遠行いますので、いつまでも回転するようになります。負荷がかかった時、 回転子が60度進まない限り、決して次の電磁石に通電しません。言い換えると電磁石による回転磁界は永久磁石の回転位置によって決まります。

一方AC同期モータは人間が管理しています。人間がコンピュータに「1秒に10回転しなさい」と指令(速度指令)を与えると、回転磁界は必ず1秒に10回転です。回転子の永久磁石は必ずこの回転磁界に 同期してついて来なければなりません。ここで回転子が絶対回転磁界について来るようにするには、固定子の電磁石にどれくらい電流を流さなければならないか常に計算で算出する必要があります。 それはモータに負荷がかかった時に電流を弱く流すと、電磁石の磁束密度が低くて永久磁石がついて来れなくなり、回転子の回転が止まって回転磁界のみ回ることになります。この状態を脱調と言います。


DCブラシレスモータ AC同期モータ
【使われている製品例】
 フロッピーやCD、DVDの主軸
 洗濯機の主軸
 DC扇風機
 ラジコン飛行機
 ドローン
 電動アシスト自転車
 電動原付バイクの主電動機(殆どが中国)
 一部の電気自動車の主電動機

【特長】
 ・部品構成が少ない(ロジックICだけでも作れる)
 ・制御がシンプル(PWM変調率を変えて速度調節のみ)
 ・複雑な計算が不要(負荷変動によって最適電流が自動的に流れる)
 ・電気角が60度ずつ進むため、トルクの斑があるが実用範囲では殆ど気にならない
 ・スイッチング損失が少ない(トランジスタ2個のみ動作のため)

【使われている製品例】
 インバータ式エアコン(室外機のコンプレッサ)
 ハイブリッド自動車の主電動機
 電気自動車の主電動機






【特長】
 ・部品構成が多い(常に最適電流を計算するため、高性能のコンピュータが必要)
 ・高精度のセンサーを必要とするため、コストが高くなる
 ・複雑な計算が必要(負荷変動によってコンピュータが常に最適電流を算出する)
 ・0〜360度全範囲を正弦波で制御するため、トルクの斑がない
 ・スイッチング損失が大きい(トランジスタが6個全部が常に動作するため)


上記の表を見ると、それぞれ欠点と利点がありますが、製品の用途に応じてどれをDCブラシレスかAC同期かを決めるが良いかと思います。どちらかと言うとDCブラシレスは 海外の製品でよく見られます。部品点数が少ないため、コストを抑えることができるのが理由でしょう。

ちなみに私はDCブラシレス派です。低速でトルクの斑がありますが、殆ど気にならないレベルで、ある程度回転数からはモータ自身の慣性でトルクが平均化されます。もっとも 魅力を感じるのは制御が簡単でDCモータと同じ特性だからです。
AC同期モータはハードウェアが揃ったとしてもソフトウェア(プログラム)を作る作業が大変です。コンピュータが最適電流を計算して出した値は理論値であって、実際は モータのインダクタンス値や抵抗値、電流センサーの誤差があるので、理論値と実際の電流値はずれていますので、補正作業も考えなければなりません。なんせ手間がかかります。



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