小型太陽光発電独立電源の制作


太陽光発電は自然エネルギーなので、昔から興味を持っていましたが、今は太陽電池が安くなって個人でも手軽に実験ができるようになりました。 「太陽電池を製造する時に電気を使うから環境によくない」という人もいますが、私から見ると「ちょっと待って」と反論したくなります。
その理由は確か製造する時に電気を使うのは事実ですが、太陽電池自身が発電素子なので、暫く稼働すると、製造時に使った分の電気を取り戻すことが できる部品だからです。

太陽光発電システムは大きく分けると、蓄電池を持たず、昼間太陽電池が発電した電気を送電線に流して他の誰かが使う方式と、もう一つは蓄電池に 一旦蓄えて、その電気を自分が使うか他の人に売るか選択できる独立型システムです。

現在日本でも太陽光発電住宅が増えていて嬉しいことですが、その殆どが蓄電池を持たない完全売電型です。このシステムのリスクは電力会社が買い取らない時は 発電した電気を自分が使わないと捨ててしまうことになります。
ワニクマ店長が今の太陽光システムにもっとも不満を感じるのは、売った電気は電力会社が支払うお金ではなく、太陽光発電が買えない貧しい人達の電気料金から 上乗せされているからです。電気料金明細書を見ると「再生エネルギー発電賦課金」という項目がそれです。

それでワニクマ店長も当然魅力を感じるのは独立型システムですね。独立型システムの利点は昼間太陽電池が発電した電気を一旦蓄電池に蓄えて、夜や曇った日でも 蓄電池の電気を自由に使えることです。 さて、今回はいきなり大型を作るより、数W程度の小型独立太陽光充電システムを作って遊んで見ました。きっかけは車のドライブレコーダーを買った時に、 12V電源をタバココンセントから取るのが一般的ですが、配線が嫌で、駐車中も録画できるようにしたかったので、独立型太陽光発電がちょうど良いと考えたからです。

簡単に3D CADで構想を描いたのが下の絵です。



太陽電池はamazonで2千円程度で購入。蓄電池の充放電管理は感光基板で制作し、制御はアトメル社のマイコン、ケースは家庭用3Dプリンタで制作という流れです。 蓄電池は単3のニッケル水素電池にしました。本当はリチウムイオン電池のほうが小型で蓄電容量が大きいですが、アルコールのような可燃性電解液を使っています ので、燃えるリスクを考えて水性電解液を使用しているニッケル水素電池を選びました。
リチウムイオン電池も普通に使用すると問題ないですが、車載部品となると、ちょうど室内なので、夏場は車内が60℃以上も上がることを考えると電池を冷やす 工夫が必要でしょう。

そして一番最初に作るのは基板です。昔から使い慣れた感光基板です。職場でもたまに使いますので、試作レベルだとこの方法が一番低コストで済みます。



上の写真の左側がフリーのPCBデータ作成CADツールで作った透明パターン図を透明のフィルムに印刷したものです。これを紫外線で感光基板を露光させた後、塩化第二鉄水溶液で 銅箔を溶かして作ったのが右側の基板です。写真では既に部品も実装しています。



上の写真は基板の裏側です。全ての制御は以前はオペアンプ式のアナログ回路やデジタル部ロジックICで設計しましたが、最近マイコン(マイクロコンピュータ)が安くなって いますので、マイコンで設計することが増えました。ソフトウェアの設計手間がかかりますが、その分変更が簡単なメリットがあります。
今回は日本製は高いので、安価で海外でもポピュラーなAVR系マイコンを使用しています。基板にLEDが付いていますが、左側の5個は簡易電流計です。中点は電源ONすると常に 点灯します。そして左側が付くと太陽電池から充電電流が流れる状態、右側が流れると蓄電池から負荷へ放電する電流のを表示する仕組みです。

右側にある三つのLEDは電池の残量を表す表示灯です。三段階式の昔の携帯電話の電池残量表示と同じです。下限まで来ると1個が表示し、さらに空に近いと1個が0.5秒周期で点滅 するようにしました。



基板制作が終わりましたので、次は3D CADでケースデータを制作し、それを3Dプリンタで出力したのが上の左側写真です。家庭用3Dプリンタなので、精度は少し荒いですが、 個人用や試作レベルでは充分かなと思います。
そして右側の写真が基板とニッケル水素蓄電池を実装した状態です。

これでハードウェアは完成しましたので、この後はマイコンのソフトウェア(プログラム)を作る作業に入ります。プログラム言語も最近いろいろ出でいますが、昔から 使い慣れたC言語を使っています。 参考程度でC言語とはどのようなものか下の絵で紹介します。



プログラム言語の世界では関数と変数の専門用語をよく聞くことがあります。関数は数学でいう関数ではなく、ある機能を実現するモジュールと考えても良いでしょう。変数は 変な数ではなく、コンピュータのメモリ上にある指定された領域のことです。言い換えると箱だと思っても良いです。この箱にCPUが計算した結果を一時的に保管したりします。 プログラム言語はCPUに計算命令を送って、その結果を変数に格納する処理しかない単純なものです。この単純な作業を如何に組み合わせるかによっていろんなことが実現できます。 どんな複雑なプログラムでもこのような単純な処理の膨大な塊でできています。なので、プログラムは単に丸暗記するのでは何の役にも立たず、如何に組み合わせを工夫することです。

先ほど関数はある機能を実現するモジュールと言いましたが、上記のプログラムも8個の関数でできています。電源を入れるとまず先に実行されるのがmain関数です。これはC言語の 決まりことです。main関数の中身は最初にイニシャル処理関数を呼び出してマイコンのハードウェア設定を行います。これは一回だけで良いので、その後は無限ループの中に入ります。 無限ループの中にタスク関数を何度も繰り返し無限に呼び出しています。無限と言っても電源が切れるまでです。一般的にWindowsのアプリ等は脱出条件のない無限ループを作るのは 厳禁ですが、マイコンは無限ループを作るのが基本です。なぜなら電源が切れるまで同じ処理をして欲しいからです。
長くなるので、メイン関数以外の関数の中身はお見せしませんが、タスク関数の中で一定周期の時間を作って、その時間になった時に他の関数を呼び出すようになっています。 ここでタスク部分までOSのようなもので、他の関数はアプリのようなものです。他にも作り方がいろいろありますが、これが私流のマイコンソフトウェアの作り方です。

ソフトウェアも完成してマイコンに書き込みましたので、ここからは動作確認です。マイコンは主に電流と電圧をAD変換(アナログからデジタル変換)し、その情報から電池残量計算と 充電中なのか放電中なのかの情報をLEDで表示させるのみです。

実はこの独立電源はもう一つユニークな機能を付けましたので、まずはそれの動作確認からです。ユニークな機能とは振動検出回路があり、駐車中に他の車に当てられてその衝撃振動を 検出した時に直ちにスリープ状態から起きてドライブレコーダを動かすことです。



上の写真は振動検出部です。加速度センサーは高価なので、磁石とコイルで簡単な振動検出回路を作りました。と言っても磁石を糸でぶら下げてその磁石が振動で動くと下にある コイルに発生する電磁誘導電圧を検出するだけの単純な仕組みです。誘導電圧はトランジスタで増幅してトリガー源としているだけですが、意外と高感度です。


再生できない方はここからダウンロードして下さい。 ダウンロード

次に過電流保護回路の動作確認です。一応電池側にヒューズがありますが、ヒューズはあくまでも負荷がショートした時に配線が燃えるのを防ぐ役割で、溶断するまで時間がかかるので、 この時間では制御用トランジスタ(MOSFET)を守ることができません。SOAエリアを超えるので、MOSFETを守るための過電流保護回路を入れました。一応電池はエネルギーの塊なので、 車に乗せるにはヒューズと半導体回路による二重保護を入れたほうが安心です。


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過電流保護回路も何度も意地悪試験をしましたが、確実に動作してくれました。トランジスタ3個で回路を工夫するだけでラッチ付きの高速保護回路が実現できます。もちろんマイコンで プログラムを組めば同じ動きは実現できますが、マイコンがフリーズしたり、誤作動した時は高速保護ができません。一応マイコンにもウォッチドッグという番犬回路があって、この 番犬がマイコンの動きを監視して、フリーズしたらリセットをかけますが、その間の時間が長すぎて、数マイクロ秒単位で保護しないといけないMOSFETを守るには間に合いませんので、 危険な匂いがプンプンする部分は必ずハードウェアで保護回路を組むのも私流です。

そして車のフロント部の真ん中当たりに設置したのが下の写真です。設置と言っても100均の両面粘着性の耐震ゴムで固定しただけですが、これが意外と優れものでした。



太陽電池もフロントガラスの下に粘着性の耐震ゴムで固定しました。今回はMPPT充電回路ではなく、単純な抵抗による小電流トリクル充電方式なので、太陽電池パネルも少し大きく なりますが、今回はこれでよしとします。



蓄電池は実験時は1000mA・hの容量にしていますが、今は2000mA・hにしています。ドライブレコーダが平均200mA電流を消費しますので、満タン充電で10時間電力供給ができます。 基本的に週末しか運転しませんので、平日昼間止めているだけで多少曇った日でも約三日で満タン充電になります。
週末も月1回くらい片道4時間くらいの長距離を走りますが、それでも電欠になったことがありません。仮に電欠になってもタバココンセントに切り替えるだけですが、この太陽電池 パネルの大きさと蓄電池容量でドライブレコーダの電源は完全に自然エネルギー自給自足です。

次はもっと経済的に余裕があれば、100V電源も一部自給自足できる実験もしてみたいですね(笑)




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